ジュニアアスリートの「目標設定」と親のサポート——技術指導ができなくても、メンタル面で子どもを支える方法

「子どものスポーツを応援したいけど、自分はそのスポーツ経験がない…」
「技術的なアドバイスができないから、何をサポートすればいいかわからない」

そんな風に悩んでいる保護者の方は、実は多いのではないでしょうか。

でも、安心してください。技術指導ができなくても、親にしかできない大切なサポートがあります——それが「メンタル面でのサポート」、特に「目標設定の支援」です。

実は、スポーツ心理学の研究によれば、適切な目標設定ができるかどうかが、子どもの成長とモチベーション維持の鍵を握っています。そして、その目標設定を子どもと一緒に考え、見守ることは、技術指導よりも時に重要な親の役割なのです。

今回は、年齢に応じた目標設定のあり方と、その際の親のサポート方法を、スポーツ心理学の知見をもとに詳しく解説します。

目次

なぜ「目標設定」が子どものスポーツで重要なのか

スポーツで成長できる理由

早稲田大学スポーツ科学学術院の広瀬統一教授は、こう説明しています。

「多くの人はスポーツで人は成長できると思っています。ではなぜ成長できるのか答えられる人はいるでしょうか。私の考える解答の一つは『準備と本番の2つの場があるから』です。本番で起こった課題を分析し、課題の絞り込みと目標設定を行う。そして目標達成に向けて練習する。そんな二つの過程を繰り返すことで人は成長できるのです」

つまり、スポーツにおける成長の核心は「目標設定 → 実践 → 振り返り → 新たな目標設定」というサイクルにあるのです。

親のサポートが必要な理由

しかし、子どもが一人でこのサイクルを回すのは簡単ではありません。

特に:

  • 幼児期〜小学校低学年:自分で目標を立てるのが難しい
  • 小学校高学年〜中学生:目標が大きすぎたり、曖昧だったりする
  • 中学生〜高校生:結果にこだわりすぎてプレッシャーに押しつぶされる

こんな時に、技術指導ではなく、目標設定と心のサポートをするのが親の重要な役割なのです。

目標設定の基本|知っておきたい3つの目標

スポーツメンタルトレーニング指導士の小林玄樹氏によると、目標には3つの種類があります。

① 結果目標(アウトカム・ゴール)

「試合に勝つ」「甲子園に出る」「レギュラーになる」など、最終的に達成したい結果

特徴:

  • 大きな夢や目標になる
  • モチベーションの源
  • ただし、自分だけではコントロールできない要素も多い

② パフォーマンス目標(パフォーマンス・ゴール)

「130キロ以上を投げられるようになる」「50m走を7秒台で走る」など、結果を出すために必要な能力やパフォーマンス

特徴:

  • 測定可能で具体的
  • 自分の努力でコントロールしやすい
  • 結果目標と日々の練習をつなぐ

③ プロセス目標(プロセス・ゴール)

「毎日素振り100回」「週3回ランニング30分」など、日々の練習で実際に行う具体的な行動

特徴:

  • 最もコントロールしやすい
  • 毎日実行できる
  • パフォーマンス向上につながる

3つの目標の関係

重要なのは、この3つのつながりを子ども自身が理解することです。

「なぜ今これを頑張るのか?」が明確になると、モチベーションが持続します。

年齢別|目標設定のあり方と親のサポート

子どもの発達段階によって、適切な目標設定の方法は大きく異なります。

幼児期〜小学校低学年(3〜8歳)

この時期の特徴:

  • 神経系の発達が著しい時期(スキャモンの発育曲線で言う「神経型」)
  • 「楽しい」「嬉しい」という感情が行動の原動力
  • 抽象的な目標を理解するのが難しい
  • 長期的な計画を立てるのは困難

適切な目標設定

結果目標:

  • 「リレーで速く走れるようになりたい」
  • 「試合で1点取りたい」
  • ※大きな大会での優勝などは、まだ理解が難しい

パフォーマンス目標:

  • 「〇〇ができるようになる」(具体的な技)
  • 「前よりも速く走れる」
  • 「ボールをキャッチできるようになる」

プロセス目標:

  • 「今日の練習を最後まで頑張る」
  • 「コーチの話をしっかり聞く」
  • 「仲間と楽しく練習する」

この時期の親の心構え:

  • 技術よりもスポーツを好きになることが最優先
  • 結果よりも過程を楽しむことを大切に
  • 「できた!」という成功体験を積み重ねる

声かけの例:

  • ○「今日は最後まで一生懸命走ったね!すごいよ」
  • ○「ボールをキャッチできたとき、嬉しかったでしょ?」
  • ×「なんで試合に勝てないの?」
  • ×「もっと練習しないとダメだよ」

小学校中学年〜高学年(9〜12歳)

この時期の特徴:

  • 「ゴールデンエイジ」と呼ばれる運動能力が飛躍的に伸びる時期
  • 自分で考える力が育ち始める
  • 仲間との比較を意識し始める
  • 長期的な目標を少しずつ理解できるようになる

適切な目標設定

結果目標:

  • 「地区大会で入賞する」
  • 「レギュラーメンバーに入る」
  • 「〇〇大会に出場する」

パフォーマンス目標:

  • 「50m走を〇秒台で走る」
  • 「10本中7本、シュートを決められるようになる」
  • 「試合で〇回ベストプレーをする」

プロセス目標:

  • 「週4回、自主練習をする」
  • 「毎日柔軟体操を10分やる」
  • 「練習で習ったことをノートに書く」

親のサポート方法

この時期の親の心構え:

  • 子どもの自分で決める力を育てる
  • 結果だけでなく「成長の過程」を認める
  • 他の子と比較せず過去の自分と比べる

声かけの例:

  • ○「先月より〇〇が上手になったね」
  • ○「この目標、どうやって達成する予定?」
  • ○「今日はどんな練習が楽しかった?」
  • ×「〇〇くんに負けてるじゃない」
  • ×「そんな目標じゃ甘すぎる」

中学生(13〜15歳)

この時期の特徴:

  • 成長スパート(身長の急激な伸び)の真っ最中
  • 心理的に不安定な思春期
  • 仲間やコーチとの関係が複雑化
  • 「結果」へのプレッシャーが増大
  • 将来を見据え始める

適切な目標設定

結果目標:

  • 「県大会でベスト8に入る」
  • 「インターハイに出場する」
  • 「〇〇高校に推薦で入る」

パフォーマンス目標:

  • 「打率を.300以上にする」
  • 「ベンチプレス〇kg挙げられるようになる」
  • 「試合でのミスを〇回以下に抑える」

プロセス目標:

  • 「平日は毎日2時間、集中して練習する」
  • 「月・水・金は筋トレ、火・木は技術練習」
  • 「試合の振り返りを毎回ノートに書く」

親のサポート方法

この時期特有の課題:成長期との両立

中学生は成長スパートの真っ最中です。ハウス食品グループの栄養士によると:

成長スパートには男女差、個人差があり、男子は11歳、女子は9歳頃から始まって約4年間に及びます。この時期には骨や筋肉を作るさまざまな栄養素がたっぷりと必要になります」

親のサポート:

  • 「発育・発達のためのエネルギー」を最優先
  • 運動量が増えすぎないよう調整
  • 睡眠時間の確保(最低8時間)
  • バランスの取れた食事

この時期の親の心構え:

  • 技術的なことはコーチに任せる
  • 親は心の安全基地になる
  • 結果よりも「過程で何を学んだか」を大切に
  • 子どもの自主性を信じて見守る

声かけの例:

  • ○「今日はベストを尽くせた?」
  • ○「悔しいよね。どうしたい?」
  • ○「最近疲れてない?休むことも大事だよ」
  • ×「なんでミスしたの!」
  • ×「〇〇高校に行けないとダメだよ」

高校生(16〜18歳)

この時期の特徴:

  • ほぼ成人に近い身体
  • 自分で目標を立て、計画を実行できる
  • 進路(大学・就職・プロ)を具体的に考え始める
  • 競技人生の大きな転換点

適切な目標設定

結果目標:

  • 「全国大会出場」
  • 「大学推薦獲得」
  • 「プロテスト合格」
  • 「インターハイでメダル」

パフォーマンス目標:

  • 「〇〇の記録を〇秒縮める」
  • 「試合で〇%の成功率を出す」
  • 「フィジカルテストで〇〇の数値を達成」

プロセス目標:

  • 「週6日、3時間の質の高い練習」
  • 「月1回、メンタルトレーニングを実施」
  • 「毎試合後、30分以内に振り返りをする」

親のサポート方法

サポート内容具体的な方法NG行動
自立の尊重子どもの決断を信頼する過干渉、口出しすぎ
相談相手になる求められたときにアドバイスする頼まれてもいないのに指示
環境整備栄養・休養・経済面のサポート結果だけを求める
将来設計の支援進路について一緒に考える親の希望を押し付ける

この時期の親の心構え:

  • もう子どもは「一人のアスリート
  • 親はマネージャーのような立場
  • 必要なときだけサポートする
  • 子どもの決断を最終的に尊重する

声かけの例:

  • ○「何か手伝えることある?」
  • ○「自分はどう思う?」
  • ○「応援してるよ」
  • ×「お母さんはこう思う」(押し付け)
  • ×「あんたのために〇〇してあげたのに」

親の「3つのルール」——子どもを支えるための心得

スポーツジャーナリストの生島淳氏は、スポーツに取り組む子どもと親の適切な関わり方として「3つのルール」を提唱しています。

ルール① 子どもに見返りを期待しない

「あなたのために送り迎えしてあげてるのに」
「こんなにお金をかけてるんだから、結果を出さないと」

こんな言葉は禁物です。

親がすべきこと:

  • サポートは「子どものためであって「自分のため」ではない
  • 結果ではなく「過程」を大切にする
  • 子ども自身の「やりたい」を尊重する

ルール② 声掛けはポジティブに、できたことを褒める

広瀬統一教授は、こう説明しています。

「重要なのは、結果だけではなく過程に着目し、行動と結果をセットで褒めるのです。そうすれば、行動が結果につながるのだと分かり、改善には行動が伴うと考えられるようになります」

具体的な褒め方:

  • ×「すごいね」(漠然としている)
  • ○「あの場面で冷静に判断できたね、すごいよ」(具体的)
  • ○「毎日自主練習を続けた結果が出たね」(行動と結果を結びつける)

ルール③ 技術的なことはコーチに任せる

親がスポーツ経験者でも、試合中に指示を出すのはNGです。

理由:

  • コーチと親の指示が異なると、子どもが混乱する
  • 親の指示は「期待」が乗りすぎて、プレッシャーになる
  • 子ども自身の「考える力」が育たない

親の役割:

  • 技術 → コーチに任せる
  • メンタル・生活面 → 親がサポート
  • 進路・将来 → 一緒に考える

年齢別|目標設定のポイントまとめ

よくある質問

Q1. 子どもが目標を立てたがらない場合はどうすれば?

A. 無理に立てさせる必要はありません。

特に幼児期や小学校低学年では、「目標」という概念自体が難しい場合があります。

対応策:

  1. 「次は何ができるようになりたい?」と軽く聞いてみる
  2. 「今日の練習で楽しかったこと」を聞く
  3. できたことを褒めて、小さな成功体験を積み重ねる

焦らず、子どもが自然に「こうなりたい」と思えるまで待つことも大切です。

Q2. 目標が達成できなかった場合、どう声をかければいい?

A. 失敗を責めるのではなく、何を学んだか」に焦点を当てます

声かけの例:

  • 「目標には届かなかったけど、頑張ったね。何が難しかった?」
  • 「次はどうしたらうまくいくと思う?」
  • 「この経験から学んだことは何?」

失敗は成長のチャンスです。次の目標設定に活かす姿勢が大切です。

Q3. 子どもが「プロになりたい」など、大きすぎる目標を立てたら?

A. 否定せずに、「そのために今何をするか」を一緒に考えます

対応例:

  1. 「素晴らしい夢だね!」とまず受け止める
  2. 「プロになるには、どんな力が必要だと思う?」と質問
  3. 「じゃあ、今週はどんな練習をする?」と小さな目標に落とし込む

結果目標 → パフォーマンス目標 → プロセス目標の流れを一緒に作ります。

Q4. 親がスポーツ経験者の場合、つい技術的なことを言ってしまう…

A. 気持ちはわかりますが、グッとこらえることが大切です。

対応策:

  1. コーチの方針を確認して、それに沿ったサポートをする
  2. 技術的なことは「コーチに聞いてみたら?」と促す
  3. どうしても伝えたいことがあれば、コーチに相談する

親とコーチの指示が違うと、子どもが最も混乱します。

Q5. 目標設定は誰が決めるべき?親?子ども?

A. 基本は子ども自身が決めるべきです。

ただし、年齢によってサポートの度合いは変わります:

年齢目標設定の主体親の役割
幼児〜小2親が提案 → 子どもが選ぶ選択肢を示す
小3〜小6子どもが考える → 親が整理を手伝う質問して具体化を支援
中学生子どもが決める → 親が確認相談相手
高校生子どもが決める求められたら助言

大切なのは、子ども自身が「自分で決めた」と感じることです。

実践例|目標設定シートを使ってみよう

小学生向け|シンプル目標シート

【今の夢・目標】(結果目標)

例:地区大会で入賞する

【そのために必要なこと】(パフォーマンス目標)

例:50m走を8秒台で走れるようになる

【今週やること】(プロセス目標)

月:ダッシュ練習10本
火:柔軟体操15分
水:ダッシュ練習10本
木:休み
金:ダッシュ練習10本
土:試合
日:振り返りノート

【今週できたこと】

・ダッシュ練習を3日やった
・柔軟体操を毎日やった

【来週の目標】

・ダッシュ練習を4日やる

中高生向け|詳細目標シート

【長期目標】(6ヶ月〜1年)

県大会ベスト8

【中期目標】(1〜3ヶ月)

50m走7.5秒台達成

【短期目標】(今月)

ダッシュ練習の質を上げる
体重を2kg増やす

【今週の具体的プロセス】

月:スタートダッシュ20本
火:ウエイトトレーニング
水:インターバル走
木:フォーム確認
金:スタートダッシュ20本
土:実戦練習
日:休養・振り返り

【振り返り】

良かった点:スタートが改善された
課題:後半のスピード維持
次週の改善点:持久力強化メニュー追加

まとめ|親にしかできないサポートがある

技術指導ができなくても、親にしかできない大切なサポートがあります。

それは:

  1. 子どもと一緒に目標を考えること
  2. できたことを認め、褒めること
  3. 心の安全基地になること

スポーツ心理学の研究が示すように、適切な目標設定とメンタルサポートこそが、子どもの成長とモチベーション維持の鍵を握っています。

年齢別サポートの要点

年齢重点サポート親の心構え
幼児〜小2楽しさ重視、成功体験づくりスポーツを好きになることが最優先
小3〜小6SMART目標づくり、自己決定支援子どもの「自分で決める力」を育てる
中学生プレッシャー軽減、生活全体サポート心の安全基地になる
高校生自立の尊重、必要時のみサポート一人のアスリートとして信頼する

親が忘れてはいけないこと

スポーツジャーナリストの生島淳氏の言葉:

「子どもに見返りを期待しない」
「声掛けはポジティブに、できたことを褒める」
「技術的なことはコーチに任せる」

この3つのルールを守れば、技術指導ができなくても、子どもの成長を最大限にサポートできます。

最後に

目標設定は「押し付ける」ものではなく、一緒に考えるものです。

  • 幼児期は「楽しい!」という気持ちを育てる
  • 小学生は「自分で決める力」を育てる
  • 中学生は「プレッシャーに負けない心」を支える
  • 高校生は「自立したアスリート」として信頼する

それぞれの段階で、親にしかできないサポートがあります。

技術的なアドバイスができなくても大丈夫。子どもと一緒に目標を考え、その過程を見守り、できたことを認める——それこそが、親の最も大切な役割なのです。

参考文献

スポーツ心理学・目標設定

親のサポート・関わり方

発育・発達

マルチスポーツ・早期専門化

SMART目標設定

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